「EOS D30」開発者インタビュー

(中編)


「Canon EOS D30」開発スタッフへの3時間にも及んだこのロング・インタビュー。

今回の中編では、使用感や注目のCMOS系についての話題をお届けします。


参加者
(以下、敬称略)

カメラ開発センター カメラ第3開発部部長 諸田雅昭
カメラ開発センター カメラ第5開発部部長 加藤得三
カメラ開発センター カメラ第5開発部カメラ51設計室室長 原田義仁
カメラ開発センター カメラ第5開発部カメラ52設計室室長 明石彰
総合デザインセンタープロダクト第1デザイン部P12デザイン室専任主任 熊倉雅一
半導体デバイス開発センターデバイス企画課課長 石崎明
デジタルカメラ商品企画課課長 前野浩

聞き手
山田久美夫





●EOSの操作性を踏襲

山田 デザインの話が出たので、まずこのカメラのデザインのあたりの話をしていただければと思うんです。どのへんにこだわったのかというあたりと、質感とかそういうのもいろいろあると思うんですが、そのあたりまで含めた話をしていただければと思います。

熊倉 まず設計から最初、中身のレイアウトを受け取ってデザイン作業を始めたんですけど、それまで私、D2000をデジタルとしてはやっていたものですから、圧倒的に小さいんですね。これはやはり小型というところで、私が経験したなかではEOS55にいちばん近いサイズだったものですから、その小型化を最大限に出していきたいなと思いました。
 そのなかで撮影行為というのは、先ほど前野からも話がありましたけど、EOSの操作性というのをいちばん大事にしよう。撮影する行為自体は銀塩もデジタルも変わらないものですから、それに関する操作性の継承というのは揺るぎないものに最初からありました。そこにいかにデジタルの機能をうまくミックスさせていくかというのが今回のポイントだったと思います。
 そのなかでやはり外観のスタイリングしていく上でも、小型になったんだから、なんとか「しっかり感」みたいなもの、「塊感」というんですか、そういったものを表現したいなと思いまして、そのへんを目指してデザインをしてあります。
 スタイリング自体は、無理に「デジタルだから」とかそういったところは本当にあんまり考えずに、その「しっかり感」「塊感」の表現に傾倒したというものです。特に背面にTFTのモニターがありまして、銀塩と違うところは、背ぶたがないということなんで、そのへんを操作性を考えながら曲面をうまく使って表現したつもりです。
同じように、テクスチャーもいままでのEOSとはちょっと変えて、「しっかり感」みたいなところの表現として、細かーい梨子地というか、レザートーンというか、そういうテクスチャーを使って高い質感を表現しようと思いました。
あと、操作性に関しては、大前提としていつでも撮影系に行ける。撮影する行為を途切れさせないということで、どんなパターンでもレリーズボタンなり撮影系のボタンを押すことで、再生系から瞬時に乗り移るようなことになっていますので、まず撮影ありきという操作系になっています。
 画面内のデザインは、まあ、私とは別のGUIの部門がやっているんですけど、そのメンバーも、パワーショット系よりは視認性とかそういったものをアップさせて、そのへんを気をつかってやってもらったんです。

山田 GUIあたりは、個人的に好みはあるんですが、もうちょっと見やすくならないかなとか(笑い)。本当にあの順番でいいのかなとか、あるいはフォントが見にくいとかいろいろあるんですけども、でも、パワーショットよりはだいぶ良くなっていますよね。
 あと、デザインの担当の方に聞いていいのかわからないんですが、持った感じが結構グリップがこう分厚いじゃないですか。このあたりというのはなんとかならないものですか。

諸田 とりあえずならなかった、ということですね(笑い)。これは、一つは新しくバッテリーをつくったんですが、なんと言っていいのか、ビデオのバッテリーと実は共通なんですよ。これ用につくったと言っても過言ではないんですが、そのバッテリーの容量、かなり他と比べてみてもちっちゃいと思うのですが、そのバッテリーである程度以上、やはり1回で撮れないと、どうしてもストレス感じてしまうということで、そこのところにあまりちっちゃなバッテリーを使えなかった。

加藤 カスタムといっても、性能自体はそのなかでの選択肢しかないんです。

諸田 そうですね。そのなかでやりたいようなところは確かに感じるんだけれど、そこをもうちょっとやろうとすると、突然に目標のコマ数までいかないということが出てきて、「少し太いな」というのはあったけど、「まあ、許容範囲だ」という判断なんですが。

山田 僕の手が小さいのが悪い、って言われればそれまでなんですけど。

諸田 私もあんまり大きくないんですね。


●最低500枚は撮れるカメラを

山田 バッテリーの話が出たところで、バッテリーの話をちょっと聞きたいんですが、単3で動かそうという発想はなかったでしょうか。

諸田 単3といいますと、やはり4本というか、こうなっちゃう(大きくなっちゃう)と思うんですよ。そうすると、この格好に収まらない。どうせ単3使ってもリチャーチャブルが必要になって、一次電池ではまず使い物にならないというのははっきりしていますし。

加藤 あと、EOSのレンズ……。

諸田 うん、もともとEOSでも、ある機種からちょっと単3が4本使えるようになったりしましたけども、システム的にかなり厳しいわけですね。さらにそれにデジタルが載っかってというところで、最初から考えませんでした。考えなかったじゃなくて、初期段階でもう外しました。

原田 これは最初、もめましたよね。

諸田 うん。

原田 それまでEOS-3でPB-Eであんなに電池使っていたわけだから、そういう発想とこういう、あの時期でもニッカドやカドミウムはだめよとか、そういうのはあったと思うんですよ。やはり使い勝手からいって、メモリ効果がないとかいうメリットをさんざんっぱら言われて、なんとなく降りたと。
 結構、こういう電池ってピーク電流取れないからむずかしいんですよ。でも、その分軽いというのはすごくメリットはあるんですよね。でも、EOS-1Vであれほどがんがん回せるのは、やはりニッケルの重いのがあるからで、そういう意味では非常に苦痛な電池ですよね。

諸田 苦痛なんですが、お客さんにとってはやはりメモリ効果ってかなりいやですよね。それをそんなに気にしなくていいというのはすごいメリットだと思います。

原田 確かにゴールデンウイーク実写でずいぶん感じました(笑い)。逆にこれでできるのはやはりCMOSだからだと思います。普通のCCDのあんな大判じゃとてもこれはできないと思います。

前野 基本的にみんな単3は使えるように。ただ、本体のほうは基本的にいちおう、で、パワードライブブースターとか単3パックというのを別売りで設けるという感じで、それもそこそこ評判を得てまいりましたけれども、これもこちらのほうは専用電池で、あちらのほうは単3という発想であったかと思いますが、ただ、こちらは逆にこの電池2本入れたほうが安定するよというのがあって、じゃ、電池最初から全部2本チャージャーみたいな形で同梱してという形で、そちらのほうが結局、品質も安定するし、いいでしょうという形になりました。

山田 個人的には僕はやはり単3がいい人なんで。どうしてかというと、すごく単純な理由で、海外に取材へ出たときに充電器が吹っ飛んだことが何度かあるんですね。D1での作品集をつくるときも、充電器を一つ買って、一つ借りていったんです。日本国内であればなんとかなるんですけど、海外に出ちゃうと、結構厳しいものがあるんで。特にこの手のカメラになってくると、どこでも使えるというところが結構あるだろうし、こういうのを持って秘境に行く人もいるだろうし。そういうあたりを考えていくと、例えばこの手のグリップのなかで単3が使えるという選択肢も将来的にできるのであれば。

加藤 できないことはないですね。ムービーでも単3パックってありますよね。それと同じ感覚でいいわけですよね。

山田 うん、うん。

加藤 それはできないわけじゃないですね。

前野 できないわけじゃない。あとは企画というか、プランニングですね。

原田 それ(縦位置グリップ)に何を入れるかももめましたよね、確か。

諸田 そう、最初はそっちのほうがもめたね。

山田 あとはバッテリーの持ちなんですが、大体何枚ぐらい撮れるというのを前提に企画として始まったんでしょうか。

諸田 500枚撮りたい。で、結果としていちおう当社条件というストロボ50%使ってAF1回させてとかね、そういう条件で540、ストロボ使わなければ680くらいというところですね。常温。

原田 低温でもあまり落ちなかったですね。

諸田 ええ。

原田 高温でも大体同じぐらい。ゆとりをもって切っちゃっているような気がしますけれども。

山田 マイクロドライブを使うと、だいぶ減ります?

諸田 いや、マイクロドライブを使って、いま確認しています。どちらかというと、安全な、マイクロドライブでテストして、これだけ撮れるんだという数字を言っているわけです。

加藤 それ以上やったらそれ以上撮れるだろうと。だから実力もっとあるかも知れませんよ。

諸田 実力というのはわからない。使い方によって違っちゃうから。1コマ撮るときに何をしているかというので違ってきますから。

原田 AFばっかり使って……。

諸田 こればっかりやられていると、持たなくなってしまうし。


●CMOSはEOSのAFセンサーから

山田 そうですよね。
あと、早めに聞いておかなきゃいけないのは絶対CMOSの話なんですが、まずCMOSという話はいつ頃から出てきたんですか。

石崎 僕は知らないので、どうぞ(笑い)。

原田 3年ぐらい前でしたっけ、というか、CMOS自体はこちらの事業所のほうでやっていたんです。それを採用しようという時期という意味ですか。

山田 そうです。

石崎 ちょっと誤解のなきように先に申し上げておきますけども、CMOSセンサーを採用したのは、このD30の撮像系が初めてではないんです。既にカメラではオートフォーカスのセンサーとして使っておりましたので、そのいろんな特徴をデジタルカメラの撮像系で使いたいという希望というんでしょうか、それが前からあったと思いますけどね。

原田 使ってほしいという希望(笑い)。

明石 もともと撮像系センサーだったでしょう。

原田 いや、もともとはAFに使ったんでしょう。

明石 最初はEOS-3。

石崎 実際に開発のスタートは、同時にやっているんです。このエリアというタイプとそれからオートフォーカスと、それからもう一つ、キヤノンのスキャナーですね。スキャナーに等倍のセンサーというのがございまして、細長いチップをつないで等倍に使うというセンサーがありますが、その三つが同時に走っておりました。現在、その撮像系以外の二つのセンサーは既にもうかなりな数を出しているという状況です。その三つとも大体95年ぐらいから研究開発をスタートしたという形になります。このD30以前にも、いろいろ「幻の企画」と言っていいんでしょうか、そういったセンサーの開発をしていまして、そこで基本的な性能は確認できたとは考えております。

原田 その「幻の企画」の写真を見せてもらって、「絵としてはいけるでしょう。あとはお値段ね」という話で、何かそれでスタートかかったんですか。
加藤 というか、まあ、もうちょっと小さいエリアで検討していたんですね。ですからこのサイズでやろうというのはわりと直前と言ったら直前かな。

原田 3年前ですか。

加藤 この企画とほぼ同時ぐらいに、「もういけるだろう。このエリアつくろう」と。でも、そのセンサーができたから、この大きさとこれができた。ほぼ同時ですね。そういう意味で基本性能は出ていたので、ただ、そのサイズに決めたのはほぼ同時というか。

――そういう意味では、わりと最初から「CCDで行こう」という考えはあまりなかったということですか。

加藤 いや、それも検討していました。


●CMOSがなければこの形はできなかった


山田 そもそもD30っていつから始まったんですか、そもそもの話で。

原田 途中から変わったんですよ。

山田 公式には……。

原田 公式には何年と言ったらいいでしょうか。

広報 ここのところは、あまり対外的にはお話してないんですよ。スタート時期はちょっと言っていないんですね。

前野 というか、どれをもってスタート時か、たぶん明確にないと思います。

諸田 どこを言おうかなというのでちょっと困っちゃうという。

山田 例えばパーソナル機というか、デジタルのカメラは、コンシューマーのものはわりと1年くらい前でうわーっとつくって、「一丁上がり」というのが結構あるんですが、一眼の場合は、当然、その何倍かかかるわけですね。

諸田 そうですねえ。

加藤 今回はセンサーの開発も一緒にやっていますから。

諸田 かつ全部自分のところでつくるというのは初めてですから、結構大変でしたね。パワーショット系のように、ぽっと短い期間で、というわけにはいかなかったですね。

原田 まさにEOS-3の開発の途中からわれわれが送り出されたという、そこがスタート(笑い)。

諸田 そこから数えると、またちょっと違うかも知れない(笑い)。

山田 そっかあ。いちおう当初からCMOSでというふうに考えちゃっていいんですか。

前野 ですからどれをどこでというのがね、いろいろ。

山田 その「幻」ですか、それが外からは見えないので、D30といういまこのスタイルのものとしてはそういうふうに考えたほうがいいわけですね。

加藤 CMOSがなければ、この形にできなかった。


●従来型CMOSの欠点を解消した新センサー

山田 ということですね。で、あとCMOSのメリットもあるしデメリットもあるんですが、そのあたりをざっとご紹介いただけますか。

原田 結局、消費電流が少なくて速いということなんですよね。速いという特徴が、EOS-3のときのAFセンサーに使った理由でもあったんですよ。それまでBASISというのを使ったんだけど、画素が増えて、BASISではスキル、ぜんぜん間に合わない。それでCMOS使ったという例があるんですけど、やはりスピードですよね。
 消費電流というのはもちろんMOSの特徴としてあるんですけど、製品としては2割ぐらいとかいって何か本部長が説明していました。
 けれど、実はそっちの面よりも、結局、この手の軽い電池を使うためにピーク電流を抑えなくちゃいけないということで、CMOSの軽さというのはトータルのカメラの重さとかそういったところに生かされていると思って下さい。
 とにかくサクサク動きますし、まだまだスピードを上げる能力というポテンシャルは持っていますし、まずそういうところを生かす。で、良さもそういうところですよね。あとはいままで持っていたCMOSのデメリットをどういうふうにとにかくつぶしていくかというのがいちばんの開発の問題だったわけです。そのへんはたぶん石崎のほうから説明できると思います。

石崎 それでノイズの話、記者会見でも説明したんですが、「わかりにくい」という批判がありまして(笑い)、私も反省してちょっと資料をつくってきたんです。あちらの画面を見ながら、じゃちょっと説明を。
 これね、むずかしいんですよ(笑い)。先日、電気系の専門誌の方が綾瀬に訪ねてこられて、その方は電気物理学、そのへんの知識がありましたので、この説明で十分良かったんですけど、たぶんこちらに座っている方の半分はわからないと思います(笑い)。

 いままで「ノイズ」「ノイズ」と言っているんですけども、CMOSが安かろう悪かろうというわけです。じゃ、どの部分がCCDとどう違うのという話をまず説明しないと、わかっていただけないということで分類しています。
 まず「画素内」と「画素外」にわけて説明しますが、これはCMOSセンサーとして見た場合で、ちょっとCCDの場合、分類が違うことになるかも知れませんが、とりあえず比較のためにこういう分類にさせていただきました。
 そして画素内には、三つのノイズが主にあると考えています。これも分類がむずかしくて、実際に「暗電流」と書いてあるのが、ノイズとして見るときにはこの固定パターンとランダム・ノイズの二つに分かれて見えるんですけども、主に原因が違うので、分類してあります。

 固定パターンは大体何によって出てくるかというと、半導体プロセスの製造上のバラツキと言えるわけですね。同じシリコンウェハーのなかに、トランジスタをどれぐらい、1200万個ぐらい例えばセンサーエリアにあるとしますね。そうすると、その1個1個のトランジスタの特性のバラツキというのが必ず出ます。このバラツキは普通の電気回路、普通のICをつくるときにはほとんど問題にならないものなんですが、このようなセンサーをつくるときには非常に敏感に効いてきます。ですからこれが問題になるというわけですね。
 それでこのフェーズなんですけども、各画素固有の値をもって時間的に変動しない。例えば二つの画素を比べて、一つの画素がノイズが起きて、一つの画素は小さいとすると、必ず何回やってもそうなりますと、そういうものですね。このバラツキは、CCDはいまはもう小さくなっていますが、CMOSはまだでかい、そういうようなものですね。

 次にランダム・ノイズなんですが、ランダム・ノイズは、これは電子が動く、つまり半導体が動いたら必ず発生すると思っていただいてもいいんですけども、KTCノイズ、最近、このセンサーの記事なんかもときどきありますので、そういう言葉がときどき出るかも知れませんが、そういったものに準じまして、これは時間的に揺らいでいるものなんですね。あるいは同じ動作をしても1回ごとに違った結果になる、そういった類のノイズだったんですね。これはCCDとCMOSで基本的に一緒です。ただ、CCDは最終段のフローティング・デフュージョン・アンプと呼ばれている光信号を実際に信号を取り出す部分で発生するということですね。

 それから暗電流ですが、これも微小な結晶欠陥に起因するものです。これも素子のきわめて小さなリーク電流になっていまして、これが蓄積時間とか運動で変化します。もちろんこの暗電流も、通常の回路では問題にならないという非常に小さいものです。これは素子構造の工夫に関わりますので、CCDもCMOSも一緒です。
 それから画素内に回路的なノイズがあるわけです。これは読み出し回路だとか増幅回路で発生しますが、これがある意味では回路設計論的に大体普通、逃げることになると思います。トランジスタというと、増幅機能があるというのはご存じですか。例えば入力した電流に対して100倍だとか1000倍の電流が得られる、これが増幅機能ですね。この増幅するときに、実際にはSとNの差をつける。Sを増幅することによって、その比を確保しながら回路が構成されるものですから、普通の回路動作のときには、こういったノイズというのがある程度、設計的にコントロールするというふうに認識していただければいいです。

 次にノイズ対策なんですが、じゃ、CCDとCMOSでどんなことをやってきたかという話です。まず固定パターン・ノイズに関しては「完全転送構造」を取れるようになったら問題ない。これはちょっと後で説明しますが、この完全転送構造の提案は、かなり昔、実は私が入ったのが1980年でして、80年にAL1用のAF用のCCDをやったわけですが、このときに既にこの構造をある部分に導入いたしておりました。完璧ではなかったんですけどね。それ以後、この構造を取るようになって、ほとんどこれは問題なくなったということですね。
CMOSセンサーは、実際にはキャンセル回路を内蔵しました。これは記者会見でご説明いたしましたけれども、それによって解決したということになります。

 それからランダム・ノイズに関しては、「CDS」という回路、相関二重サンプリング、これも後でちょっと説明したいと思いますけども、それで除去することになっているわけです。
それでCMOSに関しては、ここはまた説明が、広報に30分ぐらいかけてようやく理解していただいたという(笑い)ものですが、画素内に完全転送構造をつくり込んで、キャンセル回路とゲンタリングで解決しました。

 暗電流は、対策としてほぼプロセス的な対策、製造上の対策なんですけども、埋め込みタイプ。センサーというのはシリコンの結晶の上につくります。その表面に酸化シリコン、酸化したシリコンですね、そのままですけど(笑い)、そういったものが膜として接触するわけですね。その界面のようなところで結局、結晶の温度というのは違うわけですね。そこで結晶欠陥が発生するので、そこを電気が流れると、非常にノイズが多く発生するんですね。そういったところを避けるという意味で埋め込み型にする。
 あるいはゲンタリングというのは、結局、結晶欠陥をセンサーとして関係のない深いところに押し込めてしまうというテクニックですけど、そういったものによって回避しているというのが現状の半導体テクノロジーということになります。

加藤 ちょっと身内で質問しちゃって悪いけど(笑い)、完全転送で、CCDで固定パターンになっていて、CMOSにも出てくるじゃない。センサーのランダム・ノイズの対策になっているじゃない。完全転送構造、CCDは固定パターンがなくなって、こっちはランダム・ノイズってなっているから、たぶん混乱を起こすんじゃないの。

石崎 ここの完全転送構造によって固定パターン・ノイズが発生するプロセスが、CCDとCMOS違うんです。

加藤 うん、そのへんだね。たぶんそこがこんがらがっちゃう。

石崎 では、完全転送構造って何かといいますと、実は例えば電気が抵抗を通って流れるとノイズになる。通常、たいていそんな構造をしているわけですが、この完全転送構造という構造を取ると、電荷をこっちからこっちに移すということだけですので、実はこれはノイズにならないんですね。
 これの概念図が次に示してあります。実はシリコンのなかに、これまたむずかしいんですが、これ、桶だと思って下さい。ここに電荷、実際には電子であるとかプラスの電荷だとか、そういったものを蓄めるわけですが、それでこの仕切りを付けるわけですね。ここに電極がありまして、電圧を印加すると、この仕切りの高さが変わる。そういった構造をつくり込むわけです。
 ここに電荷を蓄めておきます。その次にこのゲートを開きます。そうすると、水が流れるように流れていくわけですね。それで転送する。これが完全転送の考え方です。さっきのCCDが完全転送でなぜ固定パターンが残ったかという話なんですが、実はそれはフォトダイオードから垂直CCDに電荷を完全に転送できなかったためです。その転送できなかった度合いが、昔のCCDは画素ごとに違っていたから固定パターンになった。

加藤 それでそこに固定パターンと書いてあったんですね。


<CCDとCMOSの転送方式の違い>(概念図・参考)


石崎 そういうことですね。それでこういう構造を生かしてCMOSも改善していくという方法なんですけども、まず従来のCMOS、これは横軸が時間ですね。どういうことをやるかというと、まずリセット。空にするということですね。それから蓄積、露光ですね。それから信号を読み出すわけですが、単純に信号を読み出すと、ノイズとシグナルが混ざった信号が読み出される。そしてノイズを読み出したいとすると、またリセットしなければいけないということになりますね。
 そういうことをすると、どういうことが発生するか。これはやはり桶です。光を受けるところと思って下さい。まずリセットするということは、この三角はある電位を示しています。ある電圧にここの桶の電位を固定するということになります。ここに抵抗が書いてありますけど、あまり気にしないで下さい。
 実は、この抵抗をつないでいると、ノイズが発生するわけですね。それでこのスイッチを切るわけですけれども、切ったときに、あるノイズ分がここに取り込まれます。実際にはここから光信号を蓄積することになります。そして光信号を蓄積したら、この水準を読むわけですね。S+N1が読み出されます。真のノイズというのはこのN1レベルでしたね。だけど、ここでもういっぺんリセットをしてNを確定しなければいけません。そういう行為をすると、やはりここにある電位をつなぐことになります。そうすると、またノイズが発生するわけですが、このときのノイズは、1回目と違ったノイズの値が出てくる。これがランダム・ノイズの仕組みなんですね。このノイズを読み出しますから、N1とN2の差というのが真の値との誤差になってきます。この真の値の誤差は毎回変わってきます。これがランダム・ノイズという意味です。
 それに対して、キヤノンのCMOSセンサーの動作は、このリセットをなくして、この信号とこの信号の相関が取れればノイズを完全にキャンセルできるだろう、そういうシーケンスと構造をつくったわけですね。実際に桶の形をこういうふうにしました。そしてここにスイッチを設けました。やはり同じようにリセット動作をします。リセット動作をする、先ほどと同じようにある電位にここを固定する。そのときにこのスイッチを上げておきます。このリセットをやめたときに、やはりノイズはここに取り込まれます。取り込まれて、その後、露光が始まるわけです。露光するときにはこのスイッチを閉じます。そして光信号を蓄積します。そして読み出しを始めるわけですが、先にこのNの水準を読んでしまうわけですね。読んでしまってから、このスイッチを上げて光信号をこちらに転送します。そうすると、こういう形になりますね。その後でS+Nを読む。この二つを外の回路でキャンセルするということで、真のSを得るという構造にしてあります。

原田 外と言っても、CMOSセンサーの中です。

石崎 そうですね、もちろんそうです。このNのレベルは毎回揺らぐんですけども、こういうやり方を取ることによって真のSを得ることができます。これが従来の安かろう悪かろうのCMOSセンサーを改良したポイントです。ご質問ありますか(笑い)。

山田 ソニーから今年になって「CMOSセンサーのノイズを減らすよ」というリリースが出ていました。読んでもよくわからないんですけど、あれに近いものなんでしょうか。

石崎 学会で発表されたんですけど、実は構造に関して発表がないんですよ。ですから「確実にこうだ」という話ができないんですけども、やはりいま申し上げたような構造を何らかの形で取らないといけないとは思います。

加藤 概念はソニーさんも同じ概念だろうと思っているんですけども、まだ構造までわかっていないですから。

原田 これでCMOS特有の悪さはとにかくこういう形で解決しました。たぶん実際、最初のところはフォトダイオードをどうつくるかというのがいちばん大事なんですよ。われわれは最初、「これでいけるよ」って見せられたときには、ずいぶんいい絵だったんで安心してやり始めたら、「ISO100ではいいけど、ISO1600ではね」とか「長秒時ではね」とかいう感じだというのが後でわかって、最初にスローガン出して、「60度で使えること。ISO1600でも使えること。30秒間でも使えること」ということで、無理やりやったら、平塚でそこから3ケタぐらい性能を上げてくれました。結局、いまとなっては、もう本当にトップのメーカーさんありますよね。あのへんとほとんど肩を並べるぐらいのあれに。

加藤 だから完全にデバイスができてからこれを開発したというか、もう本当にやりながらやってきたという。

山田 同時に走った感じですね。

前野 学会発表もしないで製品化と(笑い)。


●大変だったISO100、効果的なノイズリダクション機能

原田 あと、ちょっと先ほど言い忘れたんですけど、CMOSの良さのなかには、やはりいろんなよけいな回路をつくり込むことができるというのがあって、先ほどCCDでいうCDSみたいな回路とか、あとゲインアンプみたいなものもなかに入っているんですよね。
 結局、それがカメラのスペックにどう表われるかなんですけど、1600を狙いながらISO100を入れるというのは、結構大変なんですよ、外からノイズが入ってきて。みんな200から1600とかそんな感じになっているんだけど、100ができるというのは、一つはやはりこのなかにゲインアンプをつくり込んだということ、それから5ボルトで結構出力がたくさん取れる、そういう良さが表われていると思って下さい。だから暗電流をすごく下げてくれたおかげで、本当に30秒でとんでもなくいい写真が撮れます、これは。ねー、諸田さん(笑い)。

山田 その30秒というのは、キャンセルする回路を使った場合ですか。

原田 そうです。

諸田 カスタムファンクション。

原田 三脚固定しての撮影になりますから、実際、ずうっとゴールデンウイークで使っていたんですけど、実にいいなあとしみじみ感じた次第なんですよね。

諸田 普通には撮らない写真ですけど(30秒露出での夜景カットのプリントを見せる)。

原田 こんな写真は、普通は撮らないですけど、とりあえず30秒かけてみましたという。

山田 この場所、長時間露光の定点にしているんです、実は(笑い)。近場であると便利なんで、30秒とかってないんですよ。そうすると、そうなりますよね。ああ、きれい、きれい。へーえー。

加藤 ノイズ・リダクション・モード30秒?

原田 そう。

山田 これって、ノイズ・リダクション・モードを使わないでやったら、相当きついですか?

原田 やはり差は大きいと思いますよ。そういう意味でいうと、ISO100というのが使えると思うんですよ。要するにISO100、何のためにつくったかというと、落ち着いた絵を出そうと思ったらISO100って、それなりに生きてくるんですよね。どれだけ要するにフォトンをいっぱいセンサーのなかに入れるかということで決まるわけですから。


●ISO400での常用も

山田 ええ、そうですね。常用は100と考えていいんでしょうか。

原田 いや、そんなことはないと思いますけど、常用でしょう。人の好みによるんですけど。

山田 まあ、許容範囲というのはいろいろあると思いますが。

原田 私はずうっとゴールデンウイーク、400で撮っていましたけど。

諸田 私はずうっと100で撮っていました(笑い)。

山田 「S1Pro」をこのところ使っているんです。あれがISO320と400ではほぼ見分けがつかないので、結構400で撮っているんですけど、やっぱ感度400ある一眼レフって楽なんですよね。

諸田 楽ですね。

山田 一つの興味としては、D30が400で使えるのかどうか。使えるというのは、理論的に使えるのはわかるんですけど、実用十分な絵がちゃんと出るのかどうかというのが一つ興味としてあって、そのへんはなんとかいけそうなんでしょうか。

原田 400だと問題ないと思います。あと体育館というか゛講堂みたいなところですと、自分の子どもとか撮っていたんですけど、そのときは1600で撮っていたんです。もちろん粒状性みたいなそういうザラザラ感は出てくるのは間違いなく出てきますけれども。加藤さん、見ましたよね。

諸田 見せてくれないの。

原田 子どもの写真。まあ、それなりですけどね。でも、私としては満足。まず手持ちでそういうところで撮れるという良さはやはり。

加藤 いちおう感度を広げたというイメージと……。

山田 そうなんですね。

原田 よく「下側の感度が100しかないじゃないか」というんじゃなくて、広げたと思って下さい、本当に。

加藤 100をやるのはやはり苦労したんですよね。

原田 100から1600のこれだけの広い範囲というのはやはりむずかしいんですよ。

諸田 確かに400って、すごくあちこちで手軽に使えて使いやすいんですけれど、何か突然、明るいところ、敏感なところへ行って撮ろうとすると、シャッターがやたら速いところまで飛んでいっちゃうとかね。

山田 そうなんですよね。

諸田 もうちょっとそういったところでは低くしたいしというのもあるし、やはり幅が広くないと使いにくいしという注文も出てくるねというのと、まあ、じっくり撮る場合にはゆっくり使っていい写真撮って下さいよ、というのも……。

原田 そうですね。30秒撮るときは100で必ずやりますね。

山田 そうか、結構安心しました。どうしてもその100から1600というと、100がベストで……。

加藤 そういうことですよね。

山田 もうとにかく100を推奨すると。

加藤 だからアンプだけ上に上げて……。

山田 そう、そう、そう。というイメージがすごく。

加藤 逆にだから、100をやらなきゃいけないというのは結構プレッシャーだったんだよね。やはりセンサーに対するレンジを取りますから。

原田 とにかくセンサーの出力にアンプを付けたんじゃだめなんですね。100%取るって絶対取れないです。センサーの中に入っているからこそ、外のノイズがなくてできるんです、これは。だからもう本当にセンサーのおかげで、このISO感度の広さは取れていると思って下さい。


●CMOSはコストより性能重視


山田 あとどうしてもCMOSというと、値段が安くつくれるんじゃないかという頭があるんですが、そのへんは具体的にはどうなんでしょうか。発表会のときはうまく逃げられましたが。

石崎 えーと、どう答えましたっけ(笑い)。

加藤 設備的にどうのこうのと言ったのかな。

石崎 工程で、つまり、マスク枚数で比較していますけども、CCDの現状のプロセスが、25、26枚であると想定しているんです。それに比べてやはり10%から15%の工程削減になっているだろうと思います。ただし、通常のCMOSプロセスよりは、工程は長いです。それは先ほど普通の回路と違って抑えなければいけないリープ電流ですとか、そういうものが多いわけですから、そこに手をかけざるを得ないんですね。これがセンサーとしての仕方のない部分というふうには考えていますね。こういう削減の努力というのはもちろん継続しますけれども、現状のところはそんなところかなと思います。

山田 そのCMOSを使ったことで、全体のコストというのは結構下がっていると思っていいんでしょうか、そこは結構興味があるんです。

加藤 CMOSを使っているというか、内製しているということ。富士さん、どう答えられているのか知らないけど、富士さんも内製されているので。

山田 そうですね。

原田 「CMOSは安いだろう」という表現を、われわれはこんど逆に平塚に対してやるわけですよ。「CMOS安いだろ!」って言って安くして値段を引き出す。そういう策略で使っているような感じはする(笑い)。

加藤 というか、内部でつくるということだと思います。CMOS、CCDではなくて……。

山田 そうですねえ。

石崎 キヤノンがセンサーで儲けるというよりも、やはりデジタルカメラを買っていただきたいという会社ですのでね。

加藤 あのとき、社長が言ってましたね。戦略商品は売りませんって。

山田 そう、「他社には売らない」って言っていましたね。他社に売らないって言ったのは、相当つくらないと、コストが合わないだろうなと思ったんですけど。

原田 EOSの時代からいろんなセンサーを平塚でつくっているんです。でも、ほとんどはカスタムで、ほとんどは内製で、ということなんですよね。

加藤 そういう意味では、CCDとCMOSは、設備的にCCDあたり、もうちょっと設備汎用的じゃないとすると、CMOS、なかでつくって数量はそこそこでもペイできるというか。

石崎 ですから先ほど言いましたセンサーの事業として見ると、このエリアセンサー以外に、AFのセンサーであるとか、スキャナーのほうですね。スキャナーというのは数が最近、べらぼうなんですよ。ですからそういった部分で、ある部分を支えていくというのはあるかも知れませんね。

加藤 CCDとなっちゃうと、それだけの設備だと、数、相当つくらないと、ソニーさんとか松下さんでも、それはペイできないという世界に入っちゃうかも知れませんね。

山田 そうですね。あと、不良率というのが……。

加藤 いわゆる歩留りでしょう。

山田 一般に言うCCDの歩留りに対して、いいのか悪いのかという。

加藤 あのCCDというのはよくわからないですね。

原田 面積が大きい分だけ、当然あるというのは確かでしょうね。

山田 そうですよね。

原田 あとは、こちら側が、使う側がどこまで認めてあげるかですよね。厳しいです。いつもこちらは泣いているんじゃないですか。

山田 そうでしょうねえ。

加藤 だから「まだ、30万だ」という世界に入っていると思います。

前野 決して安いセンサーじゃないです。安かろう悪かろうじゃないというのは、いまの説明でもわかっていただけるかと思うんですけど、高級なセンサーだと思っています。内部的には「『CMOS』っていう名前が良くないから、何か別の名前を考えたほうがいいんじゃないか」っていう話もあったぐらいなんですが、でも、逆にCMOS自体、僕は悪いと思っていないからこそ、EOS-3のセンサーに使ったりとかしていまして、私たちはCMOSイコール安物というところは、先陣切って払拭したいというつもりはないけど、逆に社内的に悪いものだという意識はそれほど強く持っていなかったので、皆さん方から、「え、CMOSなの? じゃあ、買わねえよ」なんていう方がいたりとか、そういうのはなんでその先入観を持っちゃうのかなぐらいに思っていますけども。

山田 CCD側の方に話を聞くと、「CMOSってちゃんとつくればものすごくいいものがつくれるはずだ。ただ、うちはやんないよ」という人が多いんですね(笑い)。それをやるためには、結構、研究期間がかかるのと、開発費がかなりかかるので、「現状の商売としてペイできないから、うちはやらないよ」という言い方なんだけど、でも、みんな「どっかがやれば面白いだろうな」というふうに言うんですよね。そういう意味ではすごくいい仕事だったという気はしますし、逆にいうと、これで下手な絵をつくってきたらアウトだなというのももう一つはあると思うんです。そのあたりって、次のステップとして絵づくりの話になるんですが、どんな感じなんでしょう。

原田 基本的には、安くて速くて消費電流が少ないという意味で、パワーショット系のエンジンというのは非常にいいパフォーマンスのものを持っているんですけども、残念ながら、あれは補色をメーンにしたものです。でも、そういう素材の良さというのがあって、一方で、われわれはD2000から持っているそういう絵づくりの信念というのがあるわけですよ。ハイエンドのほうの原色系の絵づくりはこうあるべきである、というのが一方で先行開発的に進められていまして、そのへんを合体したもので今回導入しているんです。
RGBに関してはビデオのほうが先に進んでいたというところもあって、絵づくり関係のところはそのへんからということで、実際、それをやっているやつの質という感じなんです。だから下地はパワーショット系のパフォーマンスの良さであり、原色としてのD2000のほうのものを持ってきて、絵づくりはビデオからノウハウをいろいろもらいながら絵づくりの信念を伸ばしていったという代物です。そういう意味じゃ、これ専用のチップを起こしたということですね。

加藤 やはりカラーフィルターや何かも結構、検討に時間かけましたし。

山田 そうでしょうね。

原田 EFレンズ全部使えとか言われて、やっぱり……。


※以降、後編に続く・・・

(2000年8月9日公開)



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